会長ご挨拶
日本トレーニング科学会会長
中村真理子(国立スポーツ科学センター)
本学会は、1988年のトレーニング科学研究会の発足以来、健康・体力づくりの運動・スポーツからエリート競技スポーツに至るまで、あらゆる実践現場においてトレーニングに関する情報を集積し、指導者や研究者など専門家同士の意見交換の場を共有することを目的に活動を行ってまいりました。歴代会長をはじめとする諸先輩方のご尽力により築かれてきたこの「学術と実践の交流の場」は、年々その重要性を高めています。
近年、スポーツ科学における「知」のあり方は、実験的研究の成果に依拠するものから、実践現場における経験知との相互作用を重視する方向へと変化しつつあります。とりわけ「エビデンスに基づく実践(Evidence Based Practice)」の推進においては、実験的研究に加え、実践研究、事例的研究の活用が不可欠であるとの認識が広まりつつあります。これらの研究は、研究と実践のギャップを埋める有効な手段であり、競技現場との密接な連携や戦略的知見の共有を通じて、エビデンスに基づくトレーニング戦略の構築と、トレーニング科学の現場への知の還元に大きく貢献することが示されています。本学会においても、こうした実践研究や事例の蓄積に基づく知の構築を、今後さらに推進してまいります。
さらに、近年のデジタル技術の発展により、ウェアラブルデバイスやAIを活用したトレーニング評価や最適化が加速度的に進展しています。こうした変化のなかで本学会が果たすべき使命は、最新のトレーニング科学にまつわる知見を社会や競技現場に還元し、スポーツを「する・みる・ささえる」すべての人々に開かれた学問として発展させていくことであると考えています。
本学会は、これからも学会大会や学術誌を通じて、実践研究や事例的研究の共有を推進するとともに、研究と実践を結ぶ開かれた場としての機能を担い、「研究と実践の架け橋」としての役割を果たすべく努めてまいります。
皆様のご支援とご参加を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。